1980年代の週末、東京・後楽園ゆうえんちの野外劇場では、テレビのヒーローたちが子どもたちの前で戦っていた。ジャパンアクションクラブ(JAC)の研修生だった身長180センチの岡元次郎は、そこで怪人や戦闘員を演じていた。入ったばかりの新人に回ってくる役である。ある日、仮面ライダーショーの担当者が彼を舞台の後ろから中央へ呼び出し、ヒーローの位置に立たせた。岡元は2021年、GetNavi webの玉袋筋太郎との対談でこう語っている。
「僕は身長が高いので、真ん中がいいと主役に抜擢していただきました。アクションができて動けるというよりは、大きいからやってみろという感じでしたけどね」
岡元次郎、GetNavi web(2021年)その体格が、1987年、22歳の岡元を『仮面ライダーBLACK』の主役に導く。テレビの仮面ライダーとしては6年ぶりの新シリーズで、のちにブラジルでも「Black Kamen Rider」の題で放送された。2016年、51歳の岡元は、藤岡弘、が本郷猛役で帰ってきた映画で仮面ライダー1号のスーツをまとった。少年時代にテレビで見ていたヒーローである。その間に東映のアクションは世代交代を迎え、岡元自身もヒーローから悪役へと役どころを移した。所属はずっと変わらず、2001年にJACから名を改めたジャパンアクションエンタープライズ(JAE)である。
都城
岡元は1965年1月5日、宮崎県都城市に生まれた。『仮面ライダー』の放送開始は1971年4月。藤岡弘、が、ショッカーに改造された本郷猛を演じた。
「6歳ぐらいのときに始まった藤岡弘、さんの『仮面ライダー』は憧れでした」
岡元次郎、GetNavi web(2021年)中学と高校では陸上部で跳躍の選手だった。そのバネは、のちに『BLACK』と『RX』の立ち回りで生きる。高く跳ぶジャンプと飛び蹴りは、ファンのあいだで「次郎キック」と呼ばれるようになった。本人は当時の実力をこう控えめに振り返る。
「中学・高校と陸上競技をやっていて、跳躍の選手でした。ただ全国に行けるかどうかぐらいの県レベルでした」
岡元次郎、GetNavi web(2021年)JAC
岡元をJACに誘ったのは、ジャッキー・チェンが好きな同級生だった。JACは1970年、千葉真一がスタントマンと、アクションのできる俳優を育てるために設立した。1980年代には真田広之や志穂美悦子が在籍し、東映のスーパー戦隊やメタルヒーローのアクションを担っていた。
「高校2年生のとき、将来どうしようか悩んでいたら、ジャッキー・チェンのアクションなどが好きな同級生がいて、その子から『ジャパンアクションクラブを受けてみないか?』と誘われたんです」
岡元次郎、GetNavi web(2021年)二人が問い合わせたときには、その年の募集はすでに締め切られていた。岡元は高校3年生の終わりに改めて応募し、京都で試験を受けた。受付番号は3000番台。1984年5月、14期生として入団した。

養成所は新宿にあり、期間は2年。体づくりに加えて、発声練習から芝居、ジャズダンスまで学んだ。1クラスは30人から40人ほどで、同期は数百人いたが、月日とともに少しずつ辞めていった。体操の経験がなかった岡元は、同じクラスの仲間に教わった。
「養成所時代に、体操をやっていた人が同じクラスにいらっしゃいまして。その人から個人的に公園などで体操を教えてもらっていたんです。2年間で側転、バク転、バク宙ぐらいまではできるようになりました」
岡元次郎、GetNavi web(2021年)千葉真一の教えのなかから、岡元はひとつの心得を持ち続けている。2021年の対談でもそれを口にした。千葉が亡くなる3か月前のことである。
「千葉さんの教えが『できないと言うな』だったんです。それは無謀なことに挑めという意味ではなく、まずはできるかどうかを考えてみて、それで不可能なら仕方がないけど、最初からできないとは言うなと」
岡元次郎、GetNavi web(2021年)BLACK
『仮面ライダーBLACK』は1987年10月4日、毎日放送(MBS)制作でTBS系列の全国ネットで始まった。1981年に終わった『仮面ライダースーパー1』以来のレギュラーシリーズである。主人公の南光太郎は19歳の大学生。暗黒結社ゴルゴムに拉致され、義兄弟の秋月信彦とともに次期創世王の候補として改造されるが、脳改造の前に脱出し、ゴルゴムと、シャドームーンとなった信彦に立ち向かう。
この作品で、立ち回りは1971年から仮面ライダーを手がけてきた大野剣友会からJACに移り、金田治と村上潤がアクション監督を務めた。南光太郎役に選ばれた倉田てつをは当時19歳で、シリーズ史上最年少の主演だった。岡元は、自分の起用もまた身長のおかげだったと考えている。
「『仮面ライダーBLACK』で主人公のスーツアクターに抜擢していただいたのも、主役の倉田てつをさんが大きかったので、それに合わせてということが大きかったと思います。まだJACに入って4、5年でしたから、アクションはまだまだでしたし、すべてがチャレンジでした」
岡元次郎、GetNavi web(2021年)岡元は、変身前の光太郎と変身後のBLACKが画面の上で同じ人物に見えるよう、倉田を徹底的に研究した。倉田によれば、マスクの中で同じ視野になるよう髪型まで倉田に合わせていたという。指を立てる構えはブルース・リーの映画から取り入れたもので、監督に直すよう言われても変えなかった。倉田は岡元を「兄貴」と呼ぶようになった。
崖
『BLACK』は16ミリフィルムで撮影されていた。NGを出せば、フィルムも照明も、スタッフ全員の時間も無駄になる。危険な撮影もあったのでは、という玉袋の問いに、岡元はこう答えている。
「そうですね。たとえば5、6階から飛び降りたりとか。昔はフィルムで1カット1カットが大切ですから、NGなんて出したら、どういう目で見られるか……」
岡元次郎、GetNavi web(2021年)キャリアでいちばん危なかったのは、『BLACK』で崖から落ちたことだという。劇場版『BLACK』でゴルゴム怪人を演じたJACの仲間、北村隆幸は2021年11月、SNSにこう書いた。
「私の中では、仮面ライダーBLACK、仮面ライダーRXのスーツアクターは岡元次郎さんだけです!共に50mの崖を転がりました!沢山危険な撮影やりました!」
北村隆幸、SNSへの投稿(2021年)投稿は11月26日。語呂合わせでファンが「いい次郎の日」と呼ぶ日だった。

RX
『BLACK』は1988年10月9日、全51話で完結し、東映は同じ主人公で続編を作ることを決めた。シリーズ初の試みである。2018年、雑誌@DIMEの倉田との対談で、岡元は次の仮面ライダーも担当するとは事前に聞かされていなかったと明かしている。
「新人だった僕が『BLACK』で仮面ライダーのスーツアクターになるのは大抜擢でした。たぶん普通はないような話でしたから、『RX』で『お前がやれ』と言われたらやるしかない、やらないという理由はない」
岡元次郎、@DIME(2018年)『仮面ライダーBLACK RX』は1988年10月23日に始まり、1989年9月24日まで全47話が放送された。光太郎は宇宙空間で太陽の光を浴びて新たな姿となり、異次元から来たクライシス帝国と戦う。重装甲のロボライダーと、液体に変わるバイオライダーという、シリーズ初のフォームチェンジが登場したのもこの作品で、岡元は三つの姿すべてを演じた。
倉田が「アクション監督だった金田さんが何でもやらせてた」と振り返ると、岡元は笑って「毎日が苦労だった」と応じた。撮影場所は、ほこりの舞う廃工場や廃校。必殺技に使う光の杖リボルケインは蛍光灯を仕込んだ繊細な小道具で、撮影以外ではなかなか触らせてもらえなかった。倉田は岡元のことをこう語る。
「次郎さんは身体が大きいし、動きも大きくて見ていて壮観なんです。すごく格好良かった」
倉田てつを、@DIME(2018年)空白の時代
『RX』が1989年9月に終わると、テレビの仮面ライダーは10年以上途絶えた。東映はビデオと映画でシリーズをつなぎ、岡元はこの時期の三人のヒーローをすべて演じた。最初はオリジナルビデオの『真・仮面ライダー 序章』(1992年)。生物的でダークな仮面ライダー像だった。続いて雨宮慶太監督の映画『仮面ライダーZO』(1993年)と『仮面ライダーJ』(1994年)である。
『ZO』では、アップ用の一体型スーツでは胴体が動かなかったため、アクション用のスーツは胸の位置で上下に分けられた。『J』の撮影期間は約20日で、『ZO』の半分。奥多摩など東京近郊でロケが行われた。岡元は雨宮監督の『人造人間ハカイダー』(1995年)でも、『キカイダー』の悪役を主人公にしたこの作品のハカイダーを演じている。
『超光戦士シャンゼリオン』は1996年4月3日から12月25日まで、テレビ東京で全39話が放送された。萩野崇が演じる主人公・涼村暁は、借金まみれで女好きの私立探偵で、偶然力を手に入れてしまう。作品はコメディだった。クリスタルを思わせるスーツはあまりに重く、JACのスタッフは「岡元でなければけがをする」と言うほどだった。萩野は、転んで壊すといけないという理由で試着さえ許されなかった。
エンディングの空撮では、岡元はスーツを着たまま浜松の中島海岸に何時間も立ち続けた。潮が満ちてくるなか、撮影がいつ終わるのかもわからなかった。
王蛇
2000年1月、『仮面ライダークウガ』でテレビの仮面ライダーが復活する。2001年の『仮面ライダーアギト』以降、主役ライダーはJACの次の世代にあたる高岩成二が務めるようになり、当時36歳の岡元は悪役や2号ライダー、怪人へと役どころを移した。
2002年2月3日から2003年1月19日まで放送された『仮面ライダー龍騎』で、岡元はふたたび萩野と一つの役を分け合う。萩野が演じた浅倉威は、脱獄して戦うこと自体を楽しむためにライダーバトルに加わる25歳の凶悪犯。岡元はその変身後の姿、蛇をモチーフにした仮面ライダー王蛇を演じ、キャラクターを決定づける仕草を現場で生み出した。2023年1月、シネマトゥデイの取材にこう語っている。
「撮影の休憩時間に、首を回して蛇っぽさを表現したらどうかと思いつきました」
岡元次郎、シネマトゥデイ(2023年)アフレコで王蛇の声も担当した萩野は、同じ取材で「戦いを楽しむ王蛇の声は、次郎さんの動きを見させていただき、アフレコで自然と生まれていきました」と話した。『シャンゼリオン』では「全39話中、38.5話はふざけ倒していた」二人が、『龍騎』では狂気へと振り切ったことも振り返っている。岡元は、BLACK以来演じてきた数々のライダーのなかでも、アクションでいろいろなことを試せた王蛇がとりわけ印象に残っていると語った。
キンタロス
脇に回った時代、がっしりとした体格は岡元のトレードマークになった。ファンはそれを「次郎さん体型」と呼び、どのマスクの下にいても彼だと見分けるようになる。『仮面ライダー剣』(2004〜2005年)ではレンゲルを、『仮面ライダー電王』(2007〜2008年)では、未来から来て主人公に憑依するイマジンの一人、キンタロスを演じた。
キンタロスは昔話の金太郎がモチーフで、関西弁を話し、あごに手を当てて首を鳴らし、話の途中で眠り込む。戦いのあとには相手にティッシュを差し出し、「泣けるで」と言う。声は寺杣昌紀。キンタロスが初登場した2007年3月25日放送の第9話には、岡元自身も素顔で空手道場の道場主として出演している。
次作『仮面ライダーキバ』(2008〜2009年)で仮面ライダーイクサを演じるにあたり、岡元はマネージャーの指示で2か月に10キロを落とした。『電王』の撮影がまだ終わらないうちのことで、キンタロスのスーツはぶかぶかになり、デンライナーのオーナー役の石丸謙二郎に「『筋肉番付』出るの?」と聞かれた。『キバ』が終わると、体重は元に戻った。
スーパー戦隊では『侍戦隊シンケンジャー』(2009年)のシンケンゴールドを演じた。梅盛源太役の相馬圭祐は、兄の影響で『BLACK』をビデオで見て育った世代で、スーツの中が岡元だと知って喜んだという。その後も『天装戦隊ゴセイジャー』(2010年)のゴセイナイト、『特命戦隊ゴーバスターズ』(2012年)のゴリサキ・バナナ、『獣電戦隊キョウリュウジャー』(2013年)のキョウリュウシルバーと続いた。
藤岡弘、
2009年7月26日放送の『仮面ライダーディケイド』第26話で、倉田は20年ぶりに南光太郎を演じ、岡元もふたたびBLACKとRXのスーツを着た。2018年の対談で倉田は、アクションなら若い連中に負ける気はしないと話し、岡元にはずっとスーツアクターを続けてほしいと語っている。
「岡元次郎が演じているってだけで温かいファンは涙してくれるんです」
倉田てつを、@DIME(2018年)2016年1月、シリーズ45周年記念の映画『仮面ライダー1号』の新しいスーツが発表された。69歳の藤岡弘、が本郷猛役で帰ってくる作品である。ネットでは「藤岡さん本人が入るのでは」という声とともに、「岡元次郎さん?」という声も上がった。映画は2016年3月26日に公開され、スーツの中には、都城で6歳の少年がテレビで見ていたあの仮面ライダーを演じる岡元がいた。
2023年には58歳で『仮面ライダーアウトサイダーズ』の王蛇をふたたび演じ、新たな姿、王蛇サバイブも担った。『仮面ライダーガヴ』(2024〜2025年)では主人公の大叔父、デンテ・ストマックを演じている。昭和音楽大学では、殺陣の講師も務めている。

次郎祭
2007年3月10日以来、ファンは年に一度、新宿ロフトプラスワンの「次郎祭」に集まっている。司会は読売新聞の記者、鈴木美潮。2023年には岡元のインタビューも収めた著書『スーツアクターの矜恃』を出した。第1回の告知文は、ゲストの「司会者泣かせの重い口」がどこまで開くか、と予告していた。
次郎祭は岡元の誕生日に近い3月の恒例となった。2015年の第9回は50歳を祝って「sweet fifty」の副題がつき、2026年3月20日には第20回を迎えた。2021年の対談で、続ける理由を問われた岡元はこう答えている。
「苦労した結果が絵になったときに、やってよかったなと。それでファンの方が喜んでくれるのが一番ですね」
岡元次郎、GetNavi web(2021年)GetNavi webで仕事について語ったとき、岡元は56歳。ヒーローのスーツを着て34年がたっていた。
「長年やってますけど、スーツアクターは何が正解なのか分からないですし、慣れるものでもないので、幾つになってもチャレンジです」
岡元次郎、GetNavi web(2021年)あわせて読む
田口萌 2003年インタビュー(仮面ライダーBLACK)澄川真琴:足を撃たれた娘金田治、Mr. Action:アクションをドラマに変えた男(ポルトガル語)中屋敷哲也:昭和の仮面ライダーすべてを演じた男(ポルトガル語)還暦祭19、大葉健二をしのぶ(ポルトガル語)スーツアクター特集(ポルトガル語)出典: GetNavi web、@DIME、シネマトゥデイ、おたくま経済新聞、ロフトプラスワン、Wikipedia日本語版。