現代の特撮に最も大きな影響を与えてきたプロデューサーのひとりが、スーパー戦隊の一年サイクルの終わり、新ブランドPROJECT R.E.D.、そしてブラジルで進む『ジャスピオン』映画について、Kyoudai Expressに語った。
現代の特撮にこれほど深い足跡を残したプロデューサーは多くない。『仮面ライダーアギト』『仮面ライダー龍騎』『仮面ライダー555』『仮面ライダー電王』『仮面ライダーディケイド』『超光戦士シャンゼリオン』『五星戦隊ダイレンジャー』『機界戦隊ゼンカイジャー』『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』を手がけた白倉伸一郎は、現在は東映の上席執行役員として同社のキャラクター戦略を統括し、映像制作のヘッドプロデューサーを務めている。
白倉は最近、 朝日新聞のインタビューで、半世紀続いたスーパー戦隊の毎年放送を東映が止めるに至った理由を語り、特撮の未来をめぐる議論の中心にふたたび立った。
『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』の終了は、1975年からほぼ途切れることなく続いてきた体制に区切りをつけた。ただし、白倉自身が明言するとおり、それはシリーズの終焉を意味するわけではない。東映にとって現在は、歴史的には成功を収めながらもブランドとしての長期的な成長に壁を感じてきたモデルを、見直す機会にあたる。
こうした状況の中で、Kyoudai Expressは東映に連絡を取り、白倉に独占インタビューを申し込んだ。スーパー戦隊の今後、観客の変化、ヒーロー作品が直面する課題、そして同社の海外展開について、経営判断の当事者に直接話を聞く機会になった。
インタビューの大きな柱のひとつが、スーパー戦隊の枠を受け継ぐ新ブランド、PROJECT R.E.D.である。白倉によれば、狙いは戦隊を別の年間シリーズで置き換えることではなく、毎年キャラクターも世界観も白紙に戻す仕組みそのものを断ち切ることにある。
プロジェクトはさまざまな形式を試し、新しいヒーローを生み出し、マーベル・シネマティック・ユニバースの手法とも異なる独自のユニバースを築こうとしている。 PROJECT R.E.D.の公式サイト は、このブランドを、赤いヒーローを主役とし、その世界が次元を越えて交差しうる作品群として紹介している。
白倉はまた、ブラジルで待ち望まれている『ジャスピオン』映画についても語った。プロジェクトの立ち上げ時にブラジルを訪れ、Sato Companyのチームとの協議に直接加わったことを認めている。現在は間接的に進捗を追う立場だが、プロジェクトが大きく動けば再びブラジルを訪れたいと述べ、PROJECT R.E.D.との連動の可能性にも冗談まじりに触れた。ジャスピオンは赤くないのだが。
さらに白倉は、ブラジルと日本のクリエイターが手を組む具体的な可能性を感じていると明かした。両国の才能を結びつけ、世界の観客を驚かせるような共同制作が実現すれば、これにすぐる喜びはないという。
プロデューサーの流儀
「『仮面ライダー龍騎』の「13人のライダーが殺し合う」という企画は、だれひとり賛同する人がいませんでした」
白倉伸一郎これまで数多くのヒーロー作品を手がけてこられましたが、新しい作品を企画する際、白倉様が最初に考えるのは「どんなヒーローを作るか」「どんな物語を描くか」「誰に届けるか」のうち、どれでしょうか。また、その考え方は若い頃と比べて変化しましたか。
最初に考えるのは、「この企画に求められている条件」をリストアップすることです。「誰に届けるか」がいちばん近いと思います。
その後、求められている条件に見合うヒーロー像や物語を考えます。
そうした企画のやり方自体は、若い頃もいまも変わっていませんが、若い頃のほうが条件がシンプルでした。自分の経験値が高くなったのか、若さゆえの勢いが衰えたのか、どんどん条件が複雑化して、やりづらくなったと思います。
これまでの作品の中で、企画当初は社内や関係者から強く反対されたものの、結果的にシリーズの転換点となったアイデアはありますか。
『仮面ライダー龍騎』(2002)の「13人のライダーが殺し合う」という企画は、だれひとり賛同する人がいませんでした。
ビジネス的にも成功しただけでなく、世間的なインパクトも強く、いろんな形でその後の仮面ライダーシリーズのありかたを規定してしまったと思います。
苦戦を待たない観客
「子どもや視聴者が求めているのは、正邪は関係なく、いわゆる「魅力のある人」のようです」
白倉伸一郎テレビ、配信サービス、YouTube、SNSの短い動画、ゲームなど、若い世代がコンテンツに触れる場所は大きく分散しています。現在の子どもや若者の「ヒーロー作品の見方」は、以前と比べてどのように変化したと感じていますか。
ヒーロー作品にかぎらず、ジャンルものには観客のリテラシーが必要です。
たとえば「ヒーローが苦戦して勝利する」というストーリーにカタルシスを感じるには、観客があらかじめ「強敵登場 → 苦戦 → 勝利」という基本的なプロットのお約束を知っている必要があります。
そうしたリテラシーが年々落ちており、「苦戦ブロックが時間のムダ」と感じる観客が増えている気がします。
「ヒーローが苦戦する場面を時間の無駄と感じる観客が増えている」というお話が非常に印象的でした。こうした観客に合わせて、作品側が物語の文法や構成を変えていくべきなのでしょうか。それとも、困難を乗り越えて勝利する面白さやカタルシスを、新しい形で伝え直すべきなのでしょうか。
作品や物語の作り方は、時代や観客の嗜好に応じて変えていくべきです。もっと言えば、観客より先回りして、これまでになかった作り方を発明し、時代を牽引するのが理想です。
現代の子どもや若い視聴者について、テレビ業界や大人たちが誤解していると思われることはありますか。実際の反応を見て、予想を覆された経験があれば教えてください。
現代にかぎらず、テレビ業界や大人たちは「正義の人」が支持されると思いこみがちです。
でも、反応を見ると、子どもや視聴者が求めているのは、正邪は関係なく、強い/面白い/美しい/勢いがあるといった、いわゆる「魅力のある人」のようです。
観客ごとに、別の作品を
今後、東映の特撮作品は、子どもとその家族、長年のファン、特撮に馴染みのない若者、海外の視聴者のうち、特にどの層へ新しく届けたいと考えていますか。また、そのためにどのような接点を増やそうとしているのでしょうか。
「子どもとその家族」「長年のファン」「特撮に馴染みのない若者、海外の視聴者」を切り分け、それぞれに別の作品を届けたいと考えています。
とくに「特撮に馴染みのない若者、海外の視聴者」に対しては、主に映画を提供したいと考えています。
東映特撮は、ずっとTVシリーズを中核に据えてきましたが、1年ぶん50話観るよりも1本だけ観れば面白さがわかる映画のほうがハードルが低いでしょう。
スーパー戦隊、一年サイクルの終わり
「従来のスーパー戦隊とは違う形になると思います」
白倉伸一郎、スーパー戦隊の復活について『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』をもって、毎年放送されてきたスーパー戦隊のテレビシリーズが一つの区切りを迎えました。なぜ今、この決断が必要だったのでしょうか。また、スーパー戦隊は「終了」「休止」「新しい形へ生まれ変わるための期間」のうち、どのように捉えるのが最も適切でしょうか。将来、新作として復活するために必要な条件についてもお聞かせください。
スーパー戦隊のビジネスには、「新作だけが強い」という特徴があります。過去作やそのキャラクターが長く人気を保つ仮面ライダーシリーズとはそこが違います。
単年度限定の一過性のビジネスに終始せざるをえないので、複数年度にまたがる中長期的な発展計画が立てられず、ブランドとしての成長に限界がありました。
Project R.E.D. の試行錯誤を通じて知見を積み、そうした限界を越えるための方策を得たときに、スーパー戦隊が復活できる気運が整うでしょう。
ただし、従来のスーパー戦隊とは違う形になると思います。そういう意味で、現在はスーパー戦隊が新しい形へと生まれ変わるための期間であると言えると思います。
PROJECT R.E.D.、東映がつくるユニバース
「MCUとも違う、新しいヒーローユニバースを実現していきたいと考えています」
白倉伸一郎、PROJECT R.E.D.について「PROJECT R.E.D.」は、従来のスーパー戦隊や仮面ライダーの仕組みでは実現しにくかった、どのような課題や表現に挑戦するために生まれたのでしょうか。
まず、多様なヒーローIPを生み出すことです。
東映は、ヒーロー番組の制作が得意だと自負していますが、事実上、スーパー戦隊/仮面ライダーの2シリーズしか制作してきませんでした。ヒーロー作品にはもっといろんな可能性があります。その模索をしていきます。
次に、「1年サイクルで、作品世界もキャラクターもリセットする」という、東映が数十年つづけてきた従来の番組制作方式の打破です。
MCU とも違う、新しいヒーローユニバースを実現していきたいと考えています。
「PROJECT R.E.D.」では、単独ヒーロー、複数のヒーロー、巨大ロボット、宇宙刑事以外のジャンルなど、作品ごとに形式を大きく変える可能性もあるのでしょうか。一方で、すべての作品に共通する核となる要素は何ですか。
形式を作品ごとに大きく変えていくことこそが、Project R.E.D. に課せられたミッションになります。
それではバラバラになりすぎて、1つのブランドとしてのまとまりを欠きます。
そこで共通要素としてスーパー戦隊から引き継いだ「赤いキャラクターが主軸」を据えています(「R.E.D.」は赤という意味ではないのですが)。
PROJECT R.E.D.が目指す新しいヒーローユニバースは、作品同士が物語上でつながり、異なる作品のキャラクターが登場したり交差したりする構想なのでしょうか。それとも、共通の思想やブランドのもとで、それぞれ独立した作品を展開する形なのでしょうか。
異なる作品のキャラクターが交差するクロスオーバーですが、MCU のように物語上でつながるとは限りません。その点で新しい形を目指しています。
PROJECT R.E.D.を通じて、どのような成果や観客からの反応が得られれば、プロジェクトが正しい方向へ進んでおり、スーパー戦隊を新しい形で復活させる条件が整ったと判断できるのでしょうか。
少なくとも、私たち自身が「従来になかった新しいヒーロー作品をつくり出せている」「世界のどこにもない新しい映像をお送りできる制作体制がつくれた」と実感できる段階に至ることが最低条件です。
ジャスピオン、ブラジル、そして共同制作

「もし共同制作のような形でブラジルと日本が手に手を携え、全世界を驚かせるような作品づくりができたら、これにすぐる喜びはありません」
白倉伸一郎現在、ブラジルのSato Companyが『巨獣特捜ジャスピオン』を原作とする映画を企画・開発し、脚本について東映とも協議を進めていると報じられています。白倉様はこのプロジェクトにどのように関わっていらっしゃるのでしょうか。
プロジェクトが立ち上がったおりには、ブラジルにお邪魔して Sato さんのチームと密に協議いたしました。
今は進捗状況の報告を受けるだけで、間接的な関わりにすぎませんが、プロジェクトが大きく進んだら、ふたたびブラジルにお伺いしたいと思っています。
(Project R.E.D. とも連動できるといいですね……ジャスピオンは赤くありませんが)
ブラジルで『ジャスピオン』を映画化する場合、作品が『ジャスピオン』であり続けるために、必ず守るべき核心的な要素や考え方は何だと思われますか。
オリジナルの『ジャスピオン』に必ずしもとらわれず、自由に発想していただくことだと思います。
オリジナルも、先行する宇宙刑事シリーズを下じきにしつつ、『スター・ウォーズ』、『ウルトラマン』、カンフーもの、JAC ブーム(というものがあったのです)などに照らして、当時面白いと思われた要素を貪欲に取り入れていった結果の産物ですので。
ブラジルでは、すでにSato Companyなどを通じて複数の東映特撮作品が正規に配信・展開されています。このような既存のパートナーシップをさらに発展させ、日本と近い時期での配信、新作の継続的な展開、現地向けの字幕・吹き替え、さらには共同制作へつなげていく可能性はありますか。
日本の新作がブラジルでも継続的に視られるようになるよう尽くしていきます。
ビジネスの規模を拡大するためですが、それは、よりリッチな作品を制作するためです。
『ジャスピオン』プロジェクトを通じて、ブラジルにも優秀なクリエーターがいっぱいいらっしゃることが分かってきました。
もし共同制作のような形でブラジルと日本が手に手を携え、全世界を驚かせるような作品づくりができたら、これにすぐる喜びはありません。